ローマにコンクールを受けに行った話(3)

7)一次予選・・

今日はちゃんと朝食を作って食べた。そして早々と予選会場に赴き、予選が始まる前に十分準備練習をすませておく。待ち合い室から予選会場に音が筒抜けだから、予選が始まれば音出禁止になる。自分の順番の直前に5分程個室に入れてもらえるだけ。同じ心配を持った人たちが次々やってきて、たちまち部屋中騒音の渦になる。皆同じ曲を練習するから、お互いに牽制しあって、ストレスフルな時間である。コンクールにはつきものだからつられて自分までヒステリックになってはイケナイ。勤めてマイペースに、冷静に、普段どおりの練習をする。

さて予選の順番は結構早い方だったので、発表まで半日ヒマになってしまった。同じく仕事の終わった他の参加者と自己紹介しあって、ようやく打ち解けた雰囲気になる。余程自信がある人はさっそく翌日の2次予選の練習なんかするのかもしれないが、何か取らぬ狸の皮算用で、もし落ちていたらアホらしいとか、単にもうめんどくさいとかの理由で、皆とりあえずぼーっとしている。しばらくして話にも飽きたので、ちょっと近場の観光地に足を運んでみることにした。地図を見ながら住宅地の中を歩いて行く。誰もいない・・とってものどかで気分が良い。公園を抜けると、遠くにかの有名なコロッセオと凱旋門が見えて来た。

観光名所なので露天商が色んな意味不明のバッグとか帽子、はたまたスカーフなんかを売っている。中近東系の顔が多い。それから馬を引き連れた騎士の扮装のおっさんたちが大勢うろうろしている。これは京都や鎌倉の人力車と同じような商売らしい。一緒に馬車に乗ったり、写真を撮ったりする。そこらじゅう馬糞だらけなのがいただけない。

コロッセオに入ってみる。しっかり入場料を取られるのだった。すべて石造りである点を除いては、野球場のような構造になっていると思えば間違い無い。ツアーのガイドさんの近くになにげに近づき、盗み聞き。でも英語だからよく分からない・・。とりあえず一番上の階まで上がり、ぼ~っと立っていると、わー!キャー!とか奇声をあげながら、イタリア人の小学生みたいのが走って来て、取り囲まれた。理由も無くはしゃいでいる、遠足かなんかで来たのだろう。中心人物であるらしい、おませな女の子に「あなたは日本人ですか?」とたどたどしい英語で聞かれたので、たどたどしいイタリア語で「東京から来ました。」と応えると、わ~!きゃ~!とバカウケ。「何歳?」と今度は他の男の子。「にじゅう●才」というと「うそ~!」と大騒ぎ。背も低いし、中学生ぐらいだと思っていたのだろう。ひとしきり盛り上がると「ありがとう!ばいば~い!」とまた騒ぎながら走り去った。子供はどこの国に行っても無邪気なもんである。

8)結果発表・・

さて夕方コンクールの会場に戻り、結果待ちをしながら、色んな国の人と語り合う。大体「あなたの先生は誰ですか」とか「●●という日本人を知ってるか」とか、そんなような話。ハンガリーから来たというきれいな女の子としゃべろうと思うのだが、彼女はハンガリー語かドイツ語しか分からない。そこで、ドイツ語と英語のできる韓国人の男の子に間に入ってもらう。大変である・・。我々は良くハンガリーの民族舞曲を演奏することがあるから、ステップを教えてくれというと、すごい照れくさそうに、ちょっとだけ踊ってみせてくれた。日本人で言ったら炭坑節を踊れと言われたのと同じ感覚か?

結果が出た。いきなりたったの6人に絞られていた。よくもあんな一夜漬けで合格したもんだ。ちょっと得した気分である。他には例の可愛くて上手なイタリア人の女の子達、そのパリでの御学友のフランス人の女の子、さっきのNYからきた韓国人の男の子、ハンガリー人の女の子、という顔ぶれだった。その後すぐ伴奏者とのリハーサルが組まれ、ロンゲ茶パツのピアニストの兄さんと打ち合わせをした。帰り道、韓国人の男の子とお互いを頑張りましょう、と喜びあいながら気分良くホステルに戻った。

ホステルの経営者の一人であるマリオというチョ~バカなイタリア人の兄ちゃんがロビーをうろうろしていた。以前泊まりに来た日本人の女の子を引っ掛けたことがあったらしく、べたべたくっついてきてうっとうしいのだけど、色々親切にしてくれる。「コンクールはどうだったのか?」と言うので「受かったぞ。」というと「そいつぁ~すげえや。頑張れよ!受かっても落ちても、ここでコンサートパーティーだ。」と嬉しいことを言ってくれる。それからまた部屋に隠って、暗がりで睡魔と戦いながら、練習、練習、練習・・。

9)バナジェラ・・

今日はホテルに集合。宴会場のような所で演奏するらしい。2次予選は公開になるので、客席も200くらい並んでいる。大御所の審査員が後ろの方に並んでいるのが見えた。このコンクールはローマのフルートフェスティバルの一環だったらしく(知らなかった)楽器を持った若い女の子がいっぱいいる。受験番号が1番であったため、早々舞台袖に待機。司会者が私の名前を紹介し、舞台に上がる。バロック、ロマン派のソナタ、現代曲と3曲も吹くので、結構長い。ともかく吹き終わったので頭を下げて引っ込む。最初だからか、かなり熱い喝采をしてもらえて嬉しかった。汗を拭きふき楽器をしまっていると、同い年くらいの兄さんがとんできて「いやあ、素晴らしかった。感動しました!」と目を輝かせながら誉めてくれた。それから客席に座って、他の受験者の演奏を聴いてると、近くに座っていた女の子が「あの、あなたの演奏の録音を、何でもいいから送ってもらえませんか。私、あなたの様に吹きたいんです。」と住所と名前を書いた紙を渡してくれる子もいた。外国だと、自分の感想をストレートに伝えてきてくれる人が多くて、とても報われる。日本ではそういう習慣がないというだけのことなのだが・・。

私はここで敗退。通ったのは、審査委員長の弟子である3人。皆パリで勉強している子たちである。残念ではあるが、例の仲良しのイタリア人の女の子達は本当に上手なので、しかたない。全然練習してなかったのにあれだけ演奏できたのが奇跡みたいなもんだ。贅沢言っちゃいけない。合格した人たちにお祝いと励ましの挨拶をし、立ち去る。可愛いイタリア人の子は「ありがとう・・でもあなたに悪いわ。」と気を使ってくれて、やっぱり可愛かった。

その後、気の毒そうな顔の日本人の人たちと、近くのジェラート屋に行く。念願の美味しいバナナジェラートが食べられ、御満悦。何か気の毒がられるのに疲れてしまったので、とっとと宿へ帰ることにした。

 

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