ローマにコンクールを受けに行った話(1)

1)出発・・

国際コンクールでも受けてみっか?と思い、ローマくんだりまで行ってきた。数年前のことだ。この頃やけに調子づいていたので、調子ついでに優勝でもしないかな~と変な期待を抱きつつ。

コンクール受けるとなると音楽家は普通、生活全般をそれに捧げ、楽譜を枕に寝るぐらいの(?)勢いで修行をするはず。だけど旅費のため仕事は極力せねばならない・・と思っていたら、寝る間もないくらい忙しい状態になってしまった。普通1週間も留守にするとなると滅多な仕事は入れられないのだが、うまいこと旅行の直前にピタリとハマってしまった。仕事は有り難いけど練習するひまがない。これじゃ行く意味がないかも・・・キャンセル?いや3万円の申込金を棒にふるのはイヤだ・・そんな思惑をよそに出発の日は怒濤のように近づき、心の準備のできぬまま飛んでしまう。

2)機上にて・・

私は中華系の経由便みたいのでヨーロッパへ行くことが多い。理由は言うまでもなく「安い」からである。時間が何時間か長くかかるのを覚悟すればどうという事はない。機内食も昔よりずっと良くなっていて経由ごとにビビンバだのカレーだの異国情緒ただようものが食べられてとても美味しい。それに中国語字幕のハリウッド映画だの韓国のトレンディードラマだのが観られるのが非常に楽しい。難を言うならスッチーの皆様が情け容赦ない所だけ。ぐっすり寝ていても「飯だ!」と叩き起こされる家畜方式だから変な時に眠りこまないよう気をつける。あとちゃんと化粧をしブランド品の一つも身に付けていないと中国人だと思われ「何昃食的丑亦鶏?」とか話しかけられるので注意(自分)。

直行便だと12~14時間、経由便だと早くて17時間、トラブルがあると(頻発)20時間以上かかってしまう。いつもこのようなフライトをしていると時間潰しだけは得意になる。その秘伝のコツを御紹介しよう。ヒマを潰すには何をすればいいか。まずここで1時間程悩むこと。何故か今までの人生をゆっくり振り返ってみるのもいい。そしておもむろに何かを思い付く。「そうだ。本でも読もう。」極力思考回路をゆっくり使うこと。そうしよう、そうしよう。と思いながら本を取り出すまで1時間ぐずぐずする。本を取り出したら疲れるので1時間程休憩する。いざ読みはじめると1ページ読む間に数回居眠りしてしまう・・1時間経過。もう4時間経過。4分の1クリアである。実際はその合間にやれ食事だ映画だと横やりが入るため、本を読む段階にすらなかなか到達できないのである。この方法でいくと、本を一冊読むのに何光年費やせるか、その効果ははかりしれない。

さてもう一つのもう少し建設的な方法は、となりの人と友達になり、語りまくること。相手にもよるから難しいけど、安い便とかに乗っている連中は変なのが多いので(俺)話してみると結構面白いもんである。ただし日本人の女の子は日本ビザ目当ての変な外人男にひっかからないこと。(アジア方面は日本人の金持ちスケベオヤジにも注意。)

関西からきた新婚旅行の夫婦とお隣だった。もう結婚してから1年くらい経過したカップルだったので堪えられない程の「2人きりの世界」状態にはなっていなかったのを幸い、お互いの旅行の予定やら何やらを普通に語り合った。ところが話していてふと心配になってきた。この2人全然英語ができないという。なのにイタリアの田舎町を、ホテルの予約もなしに、それもかなりの強行日程で回る予定だと言うのだ。イタリアは他の観光地と違って、都心でも英語すら通じないような人がうろうろしてるし、田舎なんて絶望的である。公衆電話だって必死で探さないとないんだぞ。

まあ新婚旅行に水をさしては悪いと思ってだまっていたのだが、案の定予告なしのトランジットの時に会話本を片手に必死で確認している旦那の顔は土気色。驚いて私が声をかけると「探しましたよ~」と半泣き。本当に心配になってきた。そしてこの後さらなる緊急事態が発生してしまう。

3)空港にて・・

ようやくローマの空港に到着の段になって、空港からローマ市街へのアクセスを観光本でチェックした新婚2人はパニックに陥った。飛行機の到着が予定の10時より1時間遅れてしまったため、11時の終電に間に合わないこれには私もちょっと慌て、飛行機を降りてから一目散に電車乗り場まで荷物を引きずって走るが、こんな夜更けに有人のチケットブースが営業しているはずもなく、自販機での切符の買い方がまた分からない!第一お札が機械に飲まれてくれない・・手間取っている内にも時間が刻々過ぎていく。

そこを腕にギブスの三角巾兄さんが通りかかり、親切にも切符の買い方を教えてくれた。イタリア人には珍しく、英語ペラペラである。助かりましたありがとう!!と喜んだのもつかの間、目の前を走り去る電車・・・新婚さんたちはすでに目も当てられない程ショックを受け、憔悴している。どうしましょう。私なんかホテルすら予約してません。う~ん・・するとさっきの謎のギブス兄さんが事情を察して助け舟を出してくれた。「ローマに行くの?だったら在来線があるよ。自分も途中まで一緒だから行きましょう」とまたまた親切に教えてくれた。兄さんと一緒にとなりのホームの電車にばたばた乗り込む。新婚さんは事情が飲み込めないまま「え?何?」とか叫びながら付いてきた。・・・観光本には特急というかシャトルというか、成田で言ったらスカイライナーやらNEXの時刻表しか乗ってないからびっくりしたけど、在来線もちゃんと綺麗な車両で遅くまでありました。ああよかった。

電車の中でこの親切な彼の打ち明け話を聞いてみると、彼はローマのホテルで働いていて、腕の怪我のため休暇をとって帰省した帰り道だとのこと。道理で英語ペラペラな上、親切な若者だと思いました。おまけに「今日のホテル予約してないなら、ホステル通の自分がイチ押しのホステルを紹介してあげようか?」と来た。災い転じてとなす!ありがたくそのホステルの地図入りのカードを頂いた。しばし出会いの妙に感動の私。

新婚さんは今後の計画の無謀さに気づいたらしく、土気色の顔で観光本を必死に覗き込んでいる。私はギブスの彼とコンクールを受けに来た(忘れかかってた)ことなどを話す。そして乗り換えの駅についたらまた訳もわからずばたばた降りて、彼にお礼を言うヒマもなかったのだった。しかしお陰様で12時ごろ何とかローマ市街に辿り着いた。

新婚さんはかろうじて今夜は駅から出たら目の前のホテルを旅行社の人が予約していた(さすがプロ)。2人は疲れた顔をようやくゆるませ「本当に、あなたが居なかったらどうなっていたことか・・」と言いながら、去って行った。あれじゃ新婚気分を味わうどころじゃないでしょうね。海外旅行ではトラブルは絶対にあると思っているくらいでちょうどいい。何が起こっても驚かないことだ。だから絶対に語学力は必要。皆行ってるから平気かも・・とか甘く考えていると本当に危ないし、日本人が世界中で迷惑をかけまくってくれるお陰で、身に覚えのない軽蔑的扱いをされることもしばしばである。

 

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