アジア若者オーケストラに参加した話。(2)

3)異文化コミュニケーション

話は少し戻って、寮に入った夜の事…

これから3週間この9ベッドの合部屋で暮らすと思しき4・5人の女の子達が、誰かのベッドに集まって中国語でワイワイ騒いでいた。まだ日本人の子は誰も来ていないみたいだったので、ぽつんと明日からの英語のレッスンの心配をしながら辞書をめくったりしていたら、なにやらヒソヒソ話していた彼女達の一人が、思いきったように私に話しかけて来た。(話してみたいけど、通じなかったらどうしよう…)そんなドキドキ感が伝わって来た。ちょうど小学校とかで、初めて隣の席の子と友達になる瞬間みたいな感じ。何かとってつけたような質問だったと思うけど、一瞬にして「なあんだ、アジア人の感覚って同じなんだ。」とお互いが打ち解けて、ホッとしたのを覚えている。相手が西洋人なら、話しかけるなんてどうってことないんだろうけれど…私も初めてできたアジアの友達の輪にドキドキしながら加わって、色々話し始めた。「何歳?」とか「何の楽器?」とか、たわいもない会話をするだけでもとっても楽しい!お互いカタコトの英語なので分からなくなると紙に漢字を書く。が、彼女達が書くのは、漢詩に出てくるような、見た事もないような複雑な漢字ばかり…ところが、暫しじっと見ていると、どことなく似ている漢字を思い付く。それで「ああ、なるほどね!」と、案外理解できてしまう。こっちも英単語につまると漢字を書く。確か『進歩』って書いたら、みんないぶかしげに見ていて、少しすると「あ~あ~。」とちゃんと理解してくれた。漢字でコミニュケートできるなんて面白い!

コミュニケーションの事では、他にも驚くべき発見があった。台湾から来たバスーンの女の子は、真ん丸の顔にデッカイ笑い声、とても人なつこい元気な子。確かあだなでファファと呼ばれていた。ファファは笑い話が大好きで、いつもゲラゲラ笑っている。ある晩、香港のバスーンのホアキンという男の子と我々日本人を相手に「こんな話があった」と話し始めた。中国語だったので、最初はホアキンがところどころ英語に訳してくれていたが、段々話が佳境に入ってくると通訳どころではない程メチャウケしてしまい、息もままならない程笑っている。ファファも、自分で話していても可笑しいらしく、涙流してヒーヒー笑っている…それを見ていた我々は、なぜかどうにもこうにも可笑しくて、いつしか一緒になって腹をよじって笑っていた。30分くらいぶっとおしで笑って、筋肉痛になった。これは、もらい泣きの反対の、もらい笑いの原理なのか…実に不思議な、でも素敵な体験だった。言葉なんかなくても、コミュニケートってできるんだ!

 

4)御当地ものがたり~東南アジア編

キャンプが終わるといよいよ夢のようなツアーが始まり、まずはキャンプ地であるシンガポールで2公演、マレーシア、タイへと続く。怒濤の毎日だったので断片的にしか思い出す事ができない…いくつか忘れられない光景がある。シンガポールの動物園でふたこぶラクダに乗って見下ろした景色…地上の喧噪がウソの様に遠くて、すごく高い所にいる感じがした。シンガポール公演を終えて出発の前日、夕風に吹かれてざわざわと揺れる大きな木が教室から見えて、ちょっとサビシクなったこと。マレーシア公演、会場全員起立して迎える中、マレーシア国王が来席。白い法衣をまとって、赤いじゅうたんの上をしずしずと歩いてきた時の厳粛な雰囲気。クアラルンプールのホテルの、海が見えるレストランでとった朝食のシーフードサラダがすごく美味しかったけど案外高かったこと。そこからバスで、見慣れない木々の茂る森の中を、黄色い土煙をあげながらマレーシア北部に移動、あまりの激しい揺れで気分が悪くなった事。ビザ手続きのため立ち寄った美しいリゾートホテルから見えた真っ白な砂と青い海。それからタイで、田舎の一本道を横断しようとしたら、遠くに豆粒くらいの大きさで見えた車があっと思う間に目の前を横切ったこと(日本では高速道路でも出せないくらいの速さだったのかも…)はるか遠くにあるはずの美しいモスクが目の前にくっきりと見えていた事、その玉ねぎ型の美しい縞模様。日暮れ時になると、演奏中なのにホールの中まで聞こえてきたお祈りの声・・・

 

5)御当地ものがたり~隣国編

香港まで来ると都会も都会、街もゴチャゴチャしてるし車もドヤドヤ多くて空気が悪い。記録的に暑かった事もあって、昼間に街を歩くと2倍濃縮の光化学スモッグの中にいる感じ…シンガポール寮の夜風が懐かしい。夕方からは例の観光船にのって夜景見て、中華料理食べたりした。ジョンジョンが2階のデッキから身を乗り出しバカ丸出しではしゃいでる写真がある…フィリピーナと言ったってブルジョワジー、何やらゴテっとした時計をしてて、いつもきちんとした服装をしていた。無口で穏やか。でも、ステージ裏でとつじょ足をガクガクさせて緊張したフリをしてみたりして、実はひょうきんなヤツなのだった。フィリピン語で「おはよう」はえ~っと…マガンダンオマーガ。(Magandang umaga.)「が行」は鼻濁音、ジョンジョンの発音と微妙に違う。でもその挨拶をするとジョンジョンは何かテレくさそうにするので、あまり使わなかった。

台湾と香港の連中はとにかく元気。朝っぱらから声はでかいわテンション高いわ、小学生みたい。「バカ」とか「スケベ」とか下品な日本語ばっかり覚えては一日中叫んでいるんで、煩いったらありゃしない。好奇心旺盛というか、無邪気というか…そのテンションは夜中まで変わらない。12時を回っても煌々と屋台が出ている香港のダウンタウンを徘徊、旅半ばにしてすっかりヘロヘロになっている我々日本人を引きずり回す。もちろん彼ら的にはサービスのつもりである。ありがとね。…香港のホールは素晴らしく良くて、気持ち良くソロを吹いたら、降り番で客席にいたオーボエのヴィクターという香港人がすごく感動してくれた。ヤツは顔も声も侍ジャイアンツ『ばんばばん』に似ていた(関係ないけど)。そいつが、スゴイおしとやかで美人の韓国人のビオラのお嬢様に「片手を壁に付き足は4の字」という、信じられないほど気障なポーズでアタックしてる現場を見てみんなで指差して笑ってたら、何とこれが成功したんだから驚いた。

香港2回公演が終わって韓国へ。空港に降り立ったとたん、空気がキムチの香りだ。韓国の子たちはみんな良いトコのぼんぼんかお嬢様で、親切だし優しいし真面目で、善人を絵に描いたような人達。男の子は賢くて誠実で、女の子は控えめで手足がすんなりと細く、見とれてしまうくらい素敵な子ばかり。ソウルヒルトンホテルはアジアンモダンなインテリア、ガキにはごもったいないゴージャスさにびっくり。ゴキゲンついでに美味しいビビンバが食べたいと韓国の男の子に頼んだらなぜか当惑してしまい、何とお父さんに電話で相談。まあアタシも赤坂で寿司食わせろとか頼まれたら当惑すると思うけど。そのお父様ご推奨の、韓国の相場では結構なお値段の店に連れていってくれた。お通しで出て来たキムチが忘れられない。日本でいうとそばに付いてくるお小皿のタクアンのごとくさりげなかったのだが…その後の私の人生のキムチ量を大幅に増加させたと思う。もちろん石焼きビビンバは衝撃的に旨かった。辛くて当たり前な国なんだと思っていたので、韓国の子たちが鼻グスグス言わせながら食べているのに驚いて「えっ、辛いの?」と聞いたら「辛いよ~!」と泣きながら答えてた。う~ん、日本でいうところのワサビにあたるのかもな。サビ抜きなんてお子様だし、ちょっと我慢しちゃうよね。

 

6)御当地ものがたり~日本編

ソウルから数時間で熊本に着く。今どき誰でも知ってることだけど、日本との近さにびっくり。そしてバスで移動する途中のSAで、干涸びたスキヤキと冷めてしけったチクワ天みたいな激マズい昼飯が出て来て、泣きたくなる程恥ずかしかった…確かに日本にくれば物価も高いし仕方なかったのかもしれないけど…日本てある意味、本当は貧しい国なのかしら。

熊本では2~3人ずつの班に別れてホームステイだった。日本人でしかも二十歳も過ぎたアタシがホームステイも何だか変な話でちょっと恐縮。でもとても親切にしてもらった。その家のおばあさんが戦時中に覚えたカタコトの中国語で台湾のクリスティと話そうとしてたけど通じなかった…中国語って一口に言ってもいっぱいあるのね。中国語圏では公用語が英語だったりするので、このクリスティの様にイングリッシュネームを持っているのが普通で、みんな英語もかなり話せる。

香港や韓国の男の子はみんな口を揃えて、日本で勉強したり就職するのが夢だと言い、この短いキャンプの間にめきめきと日本語を覚えてしまった…われわれ日本人ときたらただの一文字もハングルが読めないというのに。それから彼らは国政に対する意識がすごく高くて、ちょうど日韓外交の記事が新聞にのっているのを見てショックを受けていた。呑気な日本の大学生の中でもとりわけ世間知らずのアタシ達は、日本語の記事ですら意味がよく分からない…こんな風に、ことあるごとに日本人のダメさ加減を思い知らされる事ばかりあった。この優れた若者達があのパワーでもって国を作っていくとしたら、気力も体力もなくグチばかりこぼしてる、全くの骨抜きな自分達に太刀打ちできるとは到底思えない。追いつき追いこされるのは時間の問題だと肌で感じた。

熊本から大阪へ、日本でも随一のホールと言われるいずみホールという所で演奏。大阪では木管楽器の連中を連れて楽器屋さんへ行ってみる。道なんか知らないからうろうろして笑われた。夜はお好み焼きでも食べようと思うが、さっぱり土地勘がないからやっぱりうろうろしてしまう。みんな疲れてるのに…やっと見つけた店で食べたけど、店のせいなのかなんなのかちっとも美味しくなくって、みんな言葉少なになってしまい、身の縮む思いをした。

 

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