豪華客船で香港に行った話。(2)

4)●ろ子と呼ばれて

折しも初夏の台風が日本に近づきつつあった。船は台風を避けるため、行路を変更して内海を通って行くことになった。

内海というのは陸に近い分、揺れが激しいそうだ。この日は特に台風が接近しているため、波がかなり高くなって来ていた。大自然の御前では大きな船でもあまり頼りにならない。コンサート中、自分も音楽にのって揺れていたため、自分の揺れと船の揺れが混ざりあって脳みそが宇宙遊泳している感じであった。やっとのことで演奏を終え、3人で社長にお茶をごちそうになっているときにそれはやってきた・・・船酔いである。

フロントで酔い止めをもらって飲んだ。この時はまだ笑う余裕があった・・・MとUがこれから大浴場に行く、と言うので部屋に戻ったが、船と言うのは船底の方が揺れが激しいのだ。間もなく動けない程具合が悪くなった。すぐさま手には備品の「エチケット袋」をスタンバイである。心配したUが横で励ましてくれていたのだが、段々返事もできないくらいになってきた。ちょっと横になってみたが・・・それは逆効果

優しいUはもはや動けない私に変わって、中身の入った「エチケット袋」をトイレに運んでくれ、「大丈夫。全然残り香もないから。」と慰めてくれていた。目玉すら動かせない程、頭の中身が回っている。今夜は台風のそばをずっと通るので、揺れの高低差は10メートル以上に達していると思われ、船は揺れているというよりは「回転している」。遊園地に横回転でグルグルまわる乗り物があるが、ちょうどあんな感じで、5秒で一回転ぐらいの周期でぐるぐる回っていた。上昇下降の度に脳みそに圧がかかり、ダメージを受ける。「すみませぇ~ん。酔っちゃったので、降ろして下さい」と言いたかったが、ここは遠足のバスではなかった。逃げ場はない。壁際のイスに腰掛け、薄目を開けたまま微動だにせず、船の備品になりきって揺れと一体化する。文字どおり嵐が過ぎるのを待つしかなかったのだった。

その頃、MとUは大浴場に入りにいっていた。そちらも大変なことになっていた。体を洗っていると背後から熱湯の大波が襲う・・・湯舟の中が、海と同じぐらい荒れ狂っていたのだった。

5)寝息

夜があけると、船は台風の側を通り過ぎたらしく、大分揺れはおさまっていた。船酔いも日常生活ができるくらいに復活した。船での食事は新鮮な海の幸盛り沢山で、元気な時だったら幸せイッパイになる豪華さなのだったが、残念ながらほとんど食べられなかった。

2日目の夜は交流パーティーが開かれた。我々はBGM要員として演奏。凄い喧噪で誰にも聴こえていない模様。パーティーの仕事にはとてもありがちな状況である。あまり真剣になるとばかばかしく悲しいので、何も考えずに演奏する。笑いをこらえながら童謡を演奏したりしていた。いくら何でもふざけすぎである。誰かクレームつけてくれても良さそうだったが、聴いてないんだからお咎めなしにきまっている。ともかく一仕事終わったことにして立食パーティーの一員に加わった。またしてもオオカミの群れの中の小ヒツジ状態になり、立ち止まっているとナンパな兄ちゃんたちが近づいて来るので非常にうっとうしい。中には北海道からわざわざ来たと言う若者もいて、先輩に命令され真新しい名刺を出してきて一生懸命話しかけてきたのには心が痛んだ。でもやっぱり面倒くさくて仕方ないので回遊魚のように会場内を歩き続けていた。

ところで船酔いとも縁がなく狂ったように食って遊んで元気イッパイのMは、寝ている間の鼻息がものすごくでかい。いびきではない。寝息だけで、びっくりするぐらいの音量なのだ。Uと私はすっかり感心して、本人に教えてあげると「寝ることに対する私の集中力は並み大抵じゃないのだ」と納得していた。

6)香港

3日目・・船の旅も最終日。仕事は午前中で終了、午後は船長に会いにいく。ひょうひょうとしていてとてもファンキーなおっさんだった。実はプールサイドにモニターが設置されていて水着ギャルを一望できるようになっているのだと自慢していた。その後プールに遊びに行きモニターの存在を確認していたら、いきなり汽笛が鳴った。喜びの表現だろうか。そんなことで鳴らしていいのか?

香港に到着。我々は業務を終了、明日の帰国まで自由時間である。やっと陸に上がってもまだ揺れている。まず最初に中華料理屋に入って巨大かつジューシーな海老蒸しギョウザにめちゃ辛い担々麺ラーメン2種をたのみ3人でむさぼり食う。旨すぎる!そして安すぎる。あちこち土産など探し歩く。Mは家族にポルノトランプを購入。これは並みあるジンガイものでも中国人系のジンガイものである。怪しさ百万馬力といった感じで、むしろ笑い用の鑑賞に堪える。店の人に怪訝な顔をされてもそんなことでたじろぐMではない。さらに中国茶専門店みたいなところで口車にのせられてボられる。観光タクシーにもボられる。もう仕事が終わった開放感から油断し過ぎていて全然ダメである。

この日の夜、ホテルに帰るとバカはピークに達し、それはそれは得体のしれない写真をいっぱいとって窒息するかと思うぐらい笑った。それは危険なレベルに到達していた。他にも香港の街の中でバカ写真をとりまくって遊んでいたのだが、あれから少しは大人になった私は、自分達のバカを実証するためここで公開するべきかどうか、まだ悩んでいる。

 

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