ローマにコンクールを受けに行った話(4)

10)2人の・・・

意気揚々と引き上げては来たものの、マリオに「ダメだったんだ・・」などと話していると、何か情けなくなってきてしまった。ちぇっ。つまんないの~・・と部屋に帰ってベッドの上でぼ~っとしていたら、マリーが「今夜、ローマでいつもつるんでる友達と会うんだけど、一緒にご飯食べない?」と何気なく誘い出してくれた。ぼ~っとしていても始まらないのでくっ付いて出かける。

部屋にいる時はあまり気づかなかったけど、マリーはさすがフランス人の女性だけあって、背がたかくすらっとして、オシャレで、とってもキレイである。待ち合わせで街角に立つ姿もとっても様になっていてカッコイイ。

「あの人たちいつも遅れるの。そろそろ来ると思うんだけど・・」と話していると、チーマーっぽい兄ちゃんが2人歩いて来た。マリーが簡単に私の事を紹介してくれ、4人でレストランに行く。明るい所で良く見てみたら、2人ともめちゃめちゃカッコイイではありませんか。外人男には全く興味のない私でも、かっこいいかそうでないかくらいは分かる。一人はブラッドピット似、もう一人はスタローン似か。こんな人たちとご飯なんか食べてていいの?ってな位の迫力である。2人はフランス人で、マリーと同じようにアパート探しをしている仲間なんだそうだ。ローマは人口に比してアパートが全然足りないらしく、どこかで空き部屋があると100人からの入居希望者がつめかけるのだという。彼らはマリーのようなインテリではないので、英語はカタコトしか話せない。3人でフランス語で話しては、マリーが早口で英語に訳して耳打ちしてくれる。話は、好きな音楽のグループの事とか、マリーの次のピアスの位置についてとか、たわいもない冗談で、その辺は日本人の大学生と変わらない。マリーの優しい心遣いにも感動したし、もう美男美女に囲まれて、一緒にいるだけで楽しくてしょうがなく、すっかりコンクールの憂さなど吹き飛んでしまった。

11)観光にいそしむ・・

週末になると、ホステルは満員状態になった。ここはバックパッカーの常宿なのである。彼らの話を聞いていると本当に驚くことばかり。陸路でオーストラリアから来たなんてグループも珍しくない。イギリス人のおじさんの一人旅だったり、アメリカンの女の子3人のグループだったり、実に様々なのが来る。マリーは、アメリカンのバスルームの使い方が汚いので、かなり御機嫌ななめ。しかも、一人がものすごいいびきをかくので閉口していた。ある晩叩き起こしていびきを止めさせたくらいである。

ともかくもコンクールが終わって、これで晴れて観光にいそしめるわけなので、今日は少し足を伸ばしてヴァチカン市国まで行ってみることにした。路線バスが発達しているのだが乗り場が膨大にありすぎて訳がわからない。それに、切符をちゃんと買って、自分で日付印を押すのだけど、そんなこと真面目にやっているのは私ぐらいしかいなくて、ローマ人は皆平気でタダ乗りしていた。ローマの交通事情といえば、もう歩行者の信号無視の凄いこと。車の方がひかないように避けながら走っている状態である。

ヴァチカンのサン・ピエトロ寺院を見る。その建築空間の美に酔いしれる。こんな所でバッハでも吹いたらさぞかし気持ち良かろうなあと思いつつ。ここは芸術作品の宝庫だ。ひとつひとつゆっくり見て歩く。私は中でも「ピエタ像」という白い大変美しい彫刻にいたく感動した。

帰りにローマ三越に寄ってお土産の物色をする。入ってみてびっくり、どこからこんなに大勢の日本人おばさんが湧き出て来ましたか?と思うくらいのにぎわいである。皆すごい勢いで買っている。何か欲望のはけ口という感じでとても卑しい。店員さんたちは皆日本語が話せるのだが、日本人の相手をするのに非常に疲れている様子だった。

12)マリーとのお別れ・・

寝ている時にどやどやと新しいバックパック一行が乱入して来た。青年、おじさん、おばさんというコンビだったのだが、男の子が同室のベッドにくるとは思いもしなかったのでものすごくびっくりして、翌朝マリオに苦情を訴えたが、あまりとりあってもらえなかった。まあ考えてみたら他にも大勢の相部屋だからむしろ安全だったりするのかも、と考え直したけど・・。

マリーが「実は、色々考えたけど私、今夜実家に帰ることにしたの。」と言いはじめた。「いつまでもアパートが見つからないし、昨日電話していたらどうしても帰りたくなってしまったの。この街は私みたいな田舎者には合わないみたい・・」どの道、数日後には私も帰国だったのだけど、お別れが早まってさびしい。連絡先を交換して、夜は駅まで見送る約束をした。

この日は、びっくりする人が現れた。・・例のギブスに三角巾の兄さんが、尋ねて来てくれたのである。2人再会を喜びあい、マリオと、マリオのお兄さんと4人で美味しいイタリアンレストランに行った。マリオの兄さんと言う人は、マンガに出て来るギャングの元締めみたいなマッチョでパンクなおっさんで「ウガア!」とか吠えて人を驚かして喜んでいる、お茶目な人である。三角巾・・ルカという名前なのだが、彼は何故か新日本プロレスに詳しく、色んなプロレスラーの名前や技の名称を出して来たので、めちゃめちゃ可笑しかった。まさかローマのレストランで藤波やジャイアント馬場の話をするとは誰も思わない。

本選を見物しに行く。審査員がそこらにうろうろしていたので色々コメントをしてもらう。結果は可愛いイタリア人の女の子が一位だった。コンクールの催しはこれでおしまいなので、他の日本人の女の子たちと名刺の交換などをして、お別れをした。夜は審査員達による特別コンサートがあったが、睡魔が襲って来たため、途中で切り上げて帰る。

ホステルはロビーがごった返していた。マリーが出発前に色んな人と話をしたり別れを惜しんで、連絡先を教えあっている所だった。そのうち荷物をとりにスタッフのジェイソンと部屋に上がって行って、少しして戻って来た。約束どおり、荷物を手伝いながら、駅まで見送りに行った。ホームに着くとマリーは「私ね、実はさっき、部屋に上がった時、ジェイソンに告白したの。彼すごく親切で、良い人だったから・・でも彼はもうすぐインドの方へ行ってしまうんだって。本当に優しくキスしてくれて、それで終わったの。だから今、余計さびしい・・」と泣きながら教えてくれた。そして「あなたとお別れするのがさびしい!帰ったら、すぐに、本当に速攻でメール書くわ!」といって抱き合った。旅の最後は、人の出会いと別れを象徴する、ドラマみたいな出来事だった。

13)おまけ・・得意のプチ遭難

帰国当日・・夜の便であるため、ホステルに荷物を預け、ハイキングに出かける。水と食料をカバンにつめて、市電にカタコトゆられて、トラエステヴェレという川向こうの地区まで遠出。地図を片手に、噴水や公園をめぐる。ここはちょっとした丘陵地帯になっていて、蝉の声を聞きながら坂をぶらぶら登って行くと、ローマ中を一望できる広場や公園にでる。手すりに腰掛けて、足をぶらぶらさせながら、お弁当タイム・・眺めは最高。遠くから鐘の鳴る音が聴こえてくる・・

その後のこと・・道を間違え、じめじめして暗い山道に入ってしまった。苔むした遺跡にはスプレーの落書き・・何か物騒な雰囲気なので、引き返そうかと思って振り返ると、怪しい中近東系の兄さんがニコニコと手をふっていた。一本道である。もう戻れない!とそのまま道を突き進んで行ったが、何と行き止まり!パニックになった私は何と、目の前の苔むした石垣に飛びつき、登り始めた。自分でも訳がわからない。ふと見ると、見たこともないようなカラフルな色のトカゲさんが、私の傍らを一緒に登っていた。登りついたところは、人の家の庭である。しかもかなりの豪邸。戻る道もないので、その庭をつっきり、塀を乗り越え、無事に?公園に戻った。道行く人は、庭から飛び出して来たこのジャパニーズ・ガールを何と認識したのだろうか・・

~END~

 

 

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