ローマにコンクールを受けに行った話(2)

4)無理矢理、観光の日々・・

そんなひょんな事で1泊3千円のホステルに滞在することになった。ホテルオーナーが「このカードはどうした?どこで手に入れた?」と驚いていた。そのカードはここを利用したことがある人だけがゲットできる秘密の?パスポートのようなものらしい。


コンクールなんか受けるからには部屋にこもって地獄の特訓(直前のあがき?)もあるだろうし、明日になったら他へ移動しよう、今夜はもう遅いからひとまず仕方ないとして・・と思いつつ、1万円の「スペシャル個室」の誘いも断り、6ベッドの相部屋に入る。これがまた小さくて固くて、最悪のベッド。日本の医者の待ち合い室のソファーの方が100倍寝心地がいいかも。部屋の住民はまだ誰も帰ってきていない。なかなか眠れない・・やっと眠れたと思ったら、誰かが起こしに来た。もう朝の10時半・・このホステルは毎日11時から15時まで掃除のため追い出される決まりだったのだ。慌てて着替え、部屋を飛び出す。でも明後日予選なのに、今からどこへ行けって?
他のホテルに移ろうにも、どうせ15時まで入れない。所在なげに観光本を見る。一番近くてどうでも良さそうなところに観光にでもいってヒマ潰してくるかあ・・と、とぼとぼ歩きだす。ホステルに楽器を置きっぱなしにする気にもなれないので、ずっと楽器を背負ったままの観光である。生命維持のため、屋台でペットボトルの水とりんごを買い込む。小汚いイタリアおやじの屋台で、黙っているとウインクしながら手とか握られて(超気持ち悪い)どこか連れて行かれそうになる。みすみす代金をしっかりボられる。私としたことが・・全く油断もスキもありゃしない。ああ、日本人はいいな、みんな親切、正直、真面目で、平和だ・・とこんな時は痛感するものである。

5)安ホステルでの素敵な毎日・・

4時間後、「工事中のトレビの泉見学」とか「炎天下のスペイン坂のぼり」とかに余計な体力を消耗してホステルに帰りつく。もう何もかもどうでも良くなって来た。いいやもう。ここにずっと泊まれば、安くてすむ!そう決めると楽しくなってきたので、まずは食料品を買い出しに出かける。食の国イタリア!スーパーでうろうろするのは結構楽しい。パスタ、トマト缶、ツナ缶、チーズ、クラッカー、りんご、水、レトルトのスープ、紅茶パック、牛乳・・etc.をごっそり買い込む。これで当分大丈夫。それに食費がめちゃんこ安上がり!
帰ると早速、ツナのトマトソースパスタを作りに取りかかる。ところがこの台所のひどさったらない。ガスレンジのツマミが全て取れてる。直径5mmの芯棒を力づくで押し回し(4つの内2つのみ可動)ガスが出たらその瞬間ライターやマッチで点火する・・という、技が必要なのだ!恐いってば!近くにいた人に手伝ってもらいようやく点火・・火の調節なんてそんな贅沢なこといってられない!道具もない~!缶切りどこ~?その度周りに泣きついて教わる。おまけに、コショウとオイルがあるのに、塩が無い!!
素材の味しかしないパスタでひとまず空腹を満たすと、いよいよ明後日の一次予選のため悪あがくことにする。同室の女の子に会い、互いに自己紹介。マリーと言って、サッカーで有名なフランスのトゥールーズから法律の勉強のためローマに出て来たが、アパートがみつからず、ずっとホステル暮しを余儀無くされているという。綺麗だしフレンドリーでしかも英語はペラペラ、知的な人である。

夜のお出かけの前にひと休みしている彼女に悪いので「ちょっと楽器の練習してもいいか」と尋ねると、むしろ喜んで、全然遠慮しないで、と言ってくれた。旅の疲れも癒えぬまま、一体どんな音が出てくるのか、恐る恐る吹いてみると、部屋の残響が非常に心地よく、意外と練習がはかどる。普段の練習が馬鹿らしく思えるくらいである。建物が違うというのはこんなにも違うのだと感心しながら、しばらくリハビリのような練習を続ける。マリーはごろごろしながら聴いていたが、しばらくすると出かける時間になって「私こんなにリラックスした時間もてたのはローマにきて初めて。本当に素敵ね。ありがとう・・」と感激の面持ちで言ってくれるのだった。それから出て行く時にロビーにいた人たちにふれまわったらしく、皆が入れ代わり立ち代わり私が吹いているのを見物にきて、何かしら感心したとか、何年吹いているんだとか、文化都市とは思えないようなプリミティブな反応をするのだった。「うるさい」と追い出されるんじゃないかと思っていたのに、こんなに喜ばれるなんて、本当に嬉しくなって、ますます気分良く吹き鳴らしまくり夜がふけた。夜は皆遅くまで遊びあるいているのでうるさくても全然問題ない。・・これって奇跡じゃないか?もしかして高級ホテルだったら本当に追い出されるか、または四六時中びくびくしながら吹くことになったかもしれない。本当に出会いって面白い。

6)一夜漬け・・

翌日ももちろん朝から叩き起こされ、無理矢理観光に追い出される。寝坊して朝ご飯食べ損なったので、まずは近くのバールでサンドイッチとカプチーノをのんびり胃に流し込む。それからポテトチップをかじりながら観光本を眺めて今後の予定を考える。今日は余り遠出しないでおこう。近所の教会に入り込む。ちょうどミサが始まるところだったので、端の方に座って、お坊さんがお経を読むのとか、皆が祈ってるのをひとしきり見物する。祭壇は金銀の装飾が美しく施され、さすがに豪華絢爛。

夕方、コンクールの説明会場に赴く。自慢じゃないが大変な方向オンチなので、駅についてからかなり行ったり来たり、うろついてしまうが、住所を頼りに何とか目的の楽器店に辿り着いた。奥の部屋に集められ、説明を色々聞いてみるに、明日の予選はこの小さな部屋で行なわれるという。国際コンクールのくせに、何か思ったより随分こじんまりしたコンクールのようで拍子抜け。それから順番を決めるくじ引きなどが行なわれる。50人くらいのエントリーの中には何人か日本人とおぼしき人も見える。それに、前年シエナという所での講習会で一緒だったイタリア人の女の子が2人来ていた。ものすごく可愛くて上手な子達である。声をかけると驚いた笑顔を浮かべて、ちゃんと私を思い出してくれた。久しぶりで知っている人に会えて、やっと自分のテリトリーに戻って来た感じ。さあ、また帰って練習だ!

今日はマリーはすでに出かけていたので、早速はりきって・・と思いきや、今度は部屋の電気が消える。アルバイトのスタッフの女の子を呼ぶと、いきなり土足で私のベッドに乗っかって足台にし、電球の接触を確かめていた。おいっっっ!!日本人は絶対こんなことしないぞ!・・第一電気消えたりしない・・とまた思う。電気はついたりつかなかったり、もう面倒くさいのでバスルームの電気を頼りに、暗がりで練習を続ける。それにしても・・眠い!連日4時間程歩き回っているのがこたえる。睡魔と戦いながら、練習、練習、練習・・。

 

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