フルーティストのための呼吸訓練法セミナー(9)

【実際のトレーニング方法 】

課題
トレーニングのポイント
新・発声入門
自然体
自由で楽な構え方にもつながります。
p.51
楽器の確保
上半身全体の理想的な状態をみつけます。
p.54
横隔膜に関する練習
いわゆる”息の支え”です。呼吸のサポート機能としての横隔膜を呼び覚まします。
p.58
腹斜筋と臀筋に関する練習
正しい呼吸の土台となる筋肉のトレーニングです。
p.66
横隔膜と咽頭の関連
息を自在にコントロールし、多様な表現を可能にするための訓練です。
p.78
開かれたのど
ダイナミックな表現と安定した技術には不可欠な身体の条件です。
p.88

トレーニングは「新・発声入門」から抜粋し、ほぼそのまま紹介しています。グレーの文字が注釈です。

《自然体》 

自然体は、すべてのトレーニングにおいて基本となる姿勢です。一日の練習の始めに準備体操(ストレッチ)~自然体と続けて行ないましょう。また他のトレーニングを正しく行なうためには、常に自然体をくずさないことが大前提になります。少しでも力みを感じたら、まず自然体にもどります。

 

1)肩幅よりやや狭い程度に足を開いて立つ。

2)第五胸骨から上(みぞおちから上)を脱力する。

落胆してため息をつく様子をイメージしてみて下さい。上胸部、肩、首、頭など全ての力を抜くのです。顔の筋肉もゆるめますから、唇もゆるみ、口はわずかに開いています。脱力できると、指先に腕の重さが感じられるはずです

3)腰から上を脱力する。

背中を曲げるのではなく、必ず骨盤から動き始めるように注意して下さい。この時、筋肉が脱力されていれば、骨盤から上が、一つの鞭のしなりのように動きます。

4)上体の重さ、脱力を感じる。

上体の全てが柔らかく揺れるように、からだを上下に動かしてみましょう。首に力が入りやすいので注意して下さい。脱力されていると、左右に揺すった時、背骨が蛇行するように動きます。

5)上体を下から順に起こす。

膝をゆるめると、骨盤は水平の方向に戻され、背骨の下部は、それにつれて骨盤の上に乗って来ます。後は、順次、背骨を積み重ねるようにし、最後に頭を載せます。

6)両足をそろえ、からだをもう一つ上に引き上げる。

一つ一つの背骨の間を少しずつ上方に伸ばしてみましょう。からだが突っぱってはいけません。筋肉は脱力しているのですから、からだの重心は大地の下へ向かっているように感じられなければなりません。髪の毛を上へ引っぱってもらうとよくわかります。天井から一本の糸で吊られている状態だと思って下さい。

 

《楽器の確保》

肩を力ませずに、常に肺をフル活用できる状態に拡げられるようにします。音量のコントロールにも重要です。

A. 背筋を拡げる練習

1)四つんばいになって背中の力を抜く。

2)背筋に向かって息を吸う。

背中全体が拡がり高くなります。この方法は、胸部を上胸部だけで拡げようとする癖のある人にとって、それを防ぐために大変効果的です。

B. 広背筋・肋間筋の自覚

脇の下の、みぞおちから横に線を引いた所に手を当て、その手を押し返すように胸郭を拡げる。

はじめは息を吸いながら拡げてみましょう。その内に、息を吸おうとしなくても胸郭を拡げることができ、その拡がった分だけ息が入ってくるようになります。

手のひらを当てると、胸に力が入るので、必ず甲の部分が当たるようにします。

 

《横隔膜に関する練習》

A. インプルスの自覚

インプルスとは”推進する”という意味で、本書ではいわゆる「息を送り出す場所」を差しています。これは、背筋下部であり、肋骨の一番下を横から後ろになぞっていくと、後ろの方が低くなっているのがわかります。すなわち、ここが息を最も深くためられるところなのです。

1)正座し、上半身は自然体のままにしておく。

2)両手の甲をインプルスに当てる。

3)インプルスに向かって息を吸い込む。

息を吸う時は、ストローで飲むように唇をとがらせ、細くゆっくり吸い込みます。すると、インプルスに入って来た空気の分の拡がりを、手に感じるはずです。同時に腹部の上部に及ぶ、帯状の膨張と緊張が起こります。この時、胸に力が入って来てはいきません。あくまでも自然体のままです。

 

B. インプルスを拡げる(コロン)

1)両ひざを抱え込んで座る。

2)後ろに転がり、起き上がる。

起き上がりこぼしの要領で行なって下さい。「コロン」というイメージで、重心を、仙骨から腰椎、脊髄へと順次移行させるのですが、体が床に触れるのは常に関節の一点だけでと思って下さい。面になると、起き上がるのが難しくなり、練習の意味が無くなってしまいます。

3)インプルスに手の甲を当て、そこに向かって息を吸う。

からだに丸さのイメージが残っていますから、インプルスを拡げやすいと思います。最初からたくさん吸おうとせず「ホワッ」と入れる感じで吸ってみて下さい。

 

C. インプルスの自覚と強化(前、横、後ろ)

1)自然体で立ち、みぞおちに手を押し当て、ポンポンと押し返す。

2)脇腹に手を押し当て、1と同様に押し返す。

3)インプルスに手を押し当て同様に押し返す。

このように、前、横、後ろと、横隔膜の周囲を自覚します。

 

D. インプルスの自覚と強化(寝て、起きる)

1)仰向けに寝る。両腕は脱力しておなかの上へのせる。

2)そのまま”z”を発声する。

リラックスした状態を保ってください。音程はG(1点ト)音が適当です。

3)そのまま首を上げ、背骨を一つ一つ起こすつもりで順次起き上がってくる。

4)3と反対に順次ゆっくり寝ていく。

3・4を繰り返すと、横隔膜の周囲が最も緊張する場所を自覚し、強化することができます。上胸部、腕は常にリラックスし、首を上げた時にのどがせまくならないように注意してください。

 

E. インプルスのさらなる強化(寝て、起きて、アクセントをつける)

1)上の1~4を行い、もう一度起き上がる時、腹筋がグッと緊張する所で静止する。

ちょうどインプルスが床から離れた所になります。

2)そのまま”z”の発声にアクセントをつける。15秒間継続する。

練習時間を少しずつ延ばしていきましょう。腹部の周囲が痛くなってきますが、腹筋だけが痛くなるのは起き上がりすぎで、インプルスによる保持の緊張が不足しています。周囲全部が保持のために働いていることを感じられるように練習して下さい。

 

 

 

《腹斜筋と臀筋に関する練習》

腹斜筋(ふくしゃきん)こそがいわゆる「おなかで息をする」ための最重要ポイントになります。体を鍛えていない人はここが衰え、胸式になりやすい人が多いです。腹式呼吸会得のとっかかりになるトレーニングです。

A. 四つんばい

まずは腹斜筋とそれに連動する臀筋の存在を自覚していきます。(息を吐く以外に体を動かさないのがポイントです)この動きにプラスして自発的に筋肉を引き締めます。

1)四つんばいになり背中の力を抜く。

2)そのままで、ゆっくり無声子音sで、息を吐く。

腹部の筋肉が順次(自動的に)収縮するのがわかる筈です。

3)下腹部から順次収縮させる。

息は(2)と同じようにおなかから”押し出された”ように感じられますか。

4)収縮した筋肉をゆっくりと弛緩させる。

空気が自然に入ってくるのが感じられます。(1)~(4)をくり返し、感じがわかったら

5)下腹部から、背筋をも押し上げるように順次収縮させる。同時に、骨盤を内側に巻き込む。

臀筋が緊張して肛門が閉まっていくのがわかります。また、息の流出は活発になるはずです。この練習は腹斜筋及び臀筋の運動方向と息の流出の感覚を覚えるのに非常に役立ちます。

 

B. バタ足腹筋

注*このトレーニングは新発声入門には載っていません。森氏に直接教わったものです。

自然体とならんで最も有用なトレーニングです。非常に簡単で有効なのでオススメです。トレーニング後、腹斜筋が収縮するのがはっきり自覚出来ますので、合わせて息を吐いてみるとよいでしょう。

1)仰向けに寝る。両足はそろえて伸ばしておく。

2)足を床から浮かせる。(5~10cm)

両手は床から離れないようにして下さい。

3)空中で、右足と左足を交互に上げ下げ(1~2回/秒)します。

連続で100回位できるのが目標です。腹斜筋の自覚・強化に役立ちます。

 

C. 寝て、足をクロスする

腹斜筋から始まった筋肉の動きが背中の筋肉へと連鎖していく感覚を自覚します。腹斜筋の強化メニューにもなります。

1)仰向けに寝る。両足はそろえて伸ばし、手は真横に広げておく。

2)足を床から浮かせる。(5~10cm)

腹直筋がかなり緊張します。

3)右足を左足の上から直角に交差させ、つま先を床につける。

両足は伸ばしたままで、左足は床から浮かせておきます。両手は床から離れないようにして下さい。

4)反対側も同様に行う。

下腹部から脇腹、肋間筋、広背筋へと引っぱられる感じがわかると思います。この方向が腹斜筋の(作用する)方向です。

 

D. 臀筋を締める

腹斜筋をしっかり自覚してしぼれるようになったら、臀筋への繋がりも意識してトレーニングします。自然に腰が浮き上がればOKです。自分で上げようとするとかなり重いはずです。

1)正座し、上体は自然体にする。

2)腹斜筋を引きながら、臀筋を収縮させる。

骨盤が内側に巻き込まれる感じになります。肛門も閉まってきます。

3)臀筋のしまりを意識しながら息をゆっくり長く吐く。

自然に上体が浮き上がるようになります。(注・自分で締めてはいけない。)

 

E. 息をまわす

腹斜筋から背中、頭までの筋肉運動が呼気によって自動的に連動していくようにします。ここまで理解できれば呼気の土台は一通りマスターしたことになります。

1)自然体から、インプルスに息を入れる。

2)腹斜筋を背筋にむかって、下部より順次引き上げる。

インプルス、背筋、首のつけ根、後頭部と、筋肉運動の流れを自覚します。

3)(2)の運動から起こる息の流れを自覚して、無声子音sの練習をする。

 

《横隔膜と咽頭との関連》

正しいお腹からの呼気を獲得したら、その息を有効に圧力に変えていきます。この時もっとも重要な鍵をにぎるのが横隔膜のコントロールです。また横隔膜と咽頭がしっかり関連していれば、呼気のさまたげになるようなのどの問題を解消することができます。

ここから後のトレーニングは、より声楽家的なものが多いので、目的が本来の主旨と多少ずれています。なるべくフルーティストが応用しやすいものを選んで解説しています。

A. みぞおちに指を一本(横隔膜と咽頭との関連を自覚)

横隔膜からの力強い呼気がのどに邪魔されずダイレクトに出せるようにします。咽頭を下げる筋肉の強化にもなります。

1)腹筋、特に肋骨の最下部(横隔膜部)を柔らかくしておき、みぞおちに指を一本あて、そこにからだの重さをのせる。

2)反対の手の親指をろうそくに見立て、ろうそくを吹き消すように、短く強い息をぶつける。

みぞおちにあてた指が下に押し返されるように感じます。決して力で作為的に押し返そうとせず、ろうそくを吹き消すことだけを考えること。

 

B. しゃがんで揺する(無意識的な横隔膜運動と音との関係)

例えば、ガタガタ道を走る乗り物に乗った時に体験する、乗り物の揺れに伴う声の揺れ。これは、横隔膜が外部からの刺激によって揺すられ、呼気が不安定になり、起こるものです。横隔膜によって声(呼気)が増幅される感覚をつかんで下さい。

1)ウサギとびの格好をして、何かにつかまり、声を出しながら、身体を上下に揺すって、バウンドさせる。

2)声のアクセントがついたところを意識して、息のアクセントに変える。

 

C. 犬の呼吸(横隔膜を随意的に働かせる運動)

この「犬の呼吸」はフルートのメソードにも度々登場するおなじみのトレーニングです。横隔膜コントロールんの入門編で、強化にもなります。慣れて来たらできるだけ速く、激しく行います。

みぞおちに息がたまるように吸う。たまった息の重さを感じながら、犬が疾走した後で見せる呼吸のように、呼気と吸気を敏速にくり返す。

 

《開かれたのど》

フルートを吹いていて息苦しい、音量が出ない、強いアクセントがつけられない、などのトラブルは大概のどの締まりに由来しています。クセのようなものなので、気長にトレーニングして少しずつ開いて行きましょう。

フルーティストの場合は、歌手ほど厳密にのどを作る必要はないようですが、のどが締まる癖のある人は一通りやってみると大いに参考になります。

 

A. 前が開きにくい人の練習

「前が…」というのは声楽特有の表現で、フルートの演奏においては大概この部分が問題になっています。咽頭(のどぼとけ)を下に引き下げる(のどを開ける)筋肉を鍛えます。のどの感覚でいうと、あくびをしている時の状態が理想です。

1)病院でのどを見せる時のように、やや斜め上を向き、口から鎖骨の真ん中に向かって1本の管をを意識し、その管を通って鎖骨の真ん中に向かって息を吸う。

2)指で輪っかを作って口の前に持ってくる。息を吸いながら、輪っかを鎖骨の真ん中まで下ろす。

管がのどを通るようにイメージして、手がかりにします。

3)その管の中を、下から空気を送って、ちょうど空のビール瓶を吹いたときのような声を出す。汽笛のようなボーッとした音になるはずである。指の輪っかを上方へゆっくりと持ち上げ、息が上へ送られる様子をイメージする。

声を使わず息だけを吐いて練習しているとのどを痛めやすいので気をつけましょう。

4)のどの開きが確保できたら、そのまま前を向いても同じようにできるようにする。

5)声から無声子音sに切り替える。

B. 後ろを開く(下咽頭腔の拡がりと共振の自覚)

「後ろ…」というのは首の後ろのあたりを指していて、ここの力が抜けると非常に息が楽になり、腰(インプルス)に息をためるのも容易です。次の「アーホッ」の予備練習にもなります。

1)両足を肩幅くらいに開く。手のひらが前を向くように両手を出し、その手のひらをひっくり返しながら、首の後ろを左右にめくるようなイメージをもって息を吸う。

軟口蓋が上がり、首の後ろが左右に開き、背筋が拡がり、そして、腰に息がたまっていくように行なう。

2)拡がった形を崩さないようにして、下腹部をひいて息を送り出し、その呼気から生まれる無声子音sの練習をする。

首の後ろに息の振動がひびく様な感覚を掴んで下さい。

 

B. アーホッ(懸垂運動の方向とバランスに関する練習)

咽頭を支える3方向の筋を十分に働かせバランスをとる練習なのですが、フルーティスト的にはのどだけでなく口の中まで楽に自然に拡げる練習として行なうとよいと思います。のどは特に強いクセになった場合簡単には治しにくいので、色々なやり方を取り入れて沢山やっていくといいでしょう。

1)顔の前に両手を向き合わせ(手が離れた状態の合掌)その手と手の間に顔を突っ込みながら息を吸う。

2)イ. 鎖骨の中央 ロ. 首の後ろの付け根 ハ. 軟口蓋、頭蓋底
この3点がバランスを持って、相反する方向に緊張していくように、息を吸いながら引っぱる。

ちょうど輪ゴムを3点で引っ張ってピンと張った三角形ができ、その三角形の中に空洞があるような感じを持ちます。

3)今度は、手の中に頭を突っ込む前に日常会話の母音のAを言い、3点が引き合う瞬間に息を吸う、「アーホッ」

声を出しながらやってみると、よいフォームで声帯が伸展した状態になると、3角形の中に頭を入れたときに自然に口がオの形になり、声は少し高くなります。

 

B. 首の付け根に吸って音を出す

高音での細く長いロングトーンが苦手な人はのどやアンブシャーを犠牲にしてしまいます。このトレーニングは楽にクリアーな音色で高音のロングトーンを吹けるヒントになります。

1)まず息を全部吐いてしまい、次に吸うとき、口から首のうしろのつけねを通り、腰まで1本の管ができるように息を吸い込む。

椅子に座って胸の力を抜き、入って来た空気が腰にたまっていくように感じながら行ないます。

2)その感覚と同じように、吸いながら声を出す。母音Uで行なう。

吸いながら声を出すという感覚がつかめないときは、最初は短く、しゃっくりしたときのように、音が身体の中に吸い込まれるように感じながら声を出し、それが長くつながるように練習します。

3)(2)で吸いながら声を出し、入ってきた空気が腰にたまったのを感じたら、そのままのフォームを保持しながら腹斜筋だけを引いて、今度は呼気で同じ音を出す。

吸った時と吐いた時の音が同じ音色になるように空洞を崩さず、下腹部のピストンの力で息を通して音を出します。

4)そのままのフォームを保持したまま、首の後ろの付け根にある少し骨の飛び出したところに指をあて、下腹部を引いてzの振動を起こし、指を当てたところが共振するのを確認する。

5)さらに、そのフォームを保持したまま、下腹部を引いて息だけのロングトーンをする。

 

 

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