フルーティストのための呼吸訓練法セミナー(8)

【トレーニングの課題とその効果】

1) 自然体

トレーニングを始めるにあたって、まず全身の不要な力を取り除いた状態になる。そこから、眠っている一つ一つの器官を呼び覚まし” 自覚 ” する可能性に近づいていくのだ。トレーニングの第一歩はこの状態、つまり「自然体」の練習である。一般に「リラックスして」とか「姿勢良く」などと、つかみ所のない表現で困惑させられがちな課題であるが、後に実践的なトレーニング方法について述べる。ここでは「自然体」の習得に向き合う必要性について考えたい。

『まず大切なのは、「解放する」ということです。つまり、からだが解きほぐされ、自由な状態になっていることが原点なのです。そうすれば、発声器官のほとんどが的確に支配され、活力を取り戻し、各器官の筋肉が敏速でしかも伸縮自在な張力を最大限に獲得できるようになります。全ての障害が取り除かれたなら、誰でも各自が持っている優れた素質が現れてきます。その時初めて歌うことができるのです。まとまりのなかった発声器官の各部が瞬間的に統合され、各々の機能を果たすべき形に変形した時、真に美しい歌声をつくり出すことができるのです。』(新・発声入門/p.18)

全身から不要な力を一切抜いた状態=自然体を会得すれば、それだけでより良い呼吸法にぐっと迫ることができる。逆に、自然体でない状態でトレーニングを始めようとすることは、スーツ姿で運動しようとするくらい不利な状況だ。面倒でも運動着に着替えた方がいいに決まっている。全身くまなく自由に動き、かつ楽な状態でスタートするのが適当である。しかし大概の人には立ち方にクセみたいなものがあり、自分では普通に立っているつもりでもどこかしら体に無理な力が入っていることが多い。これらを一つづつ自覚し丹念にほぐしていくことが「自然体」の習得というわけである。

『柔道やゴルフ、日舞、バレエ等にも自然体という言葉があるように歌唱にも自然体があります。言い換えれば、自然な立ち姿ということですが、これは、どのような要求にも即反応するために最適の、無駄のない基本姿勢を指します。歌唱においては、呼気のため、すなわち声を出すために働く筋肉の、緊張と弛緩の活発な運動を必要とします。そのため、立つ時点で、からだのどこにも無駄な力が入っていてはならないのです。』(新・発声入門/p.27)

自然体の修得から生まれるメリットは多岐に及び、精神的な面でも得るところは大きい。不用意な体の緊張、無意識的な硬直現象を緩和することができたとすれば、必ず同時に精神的緊張からも少なからず解き放たれる。こうした「心身相関」の原理に基づいて緊張緩和を良い演奏に結び付けようとする考え方、「体の緊張を解くことで精神的な緊張を緩和し」「精神的な緊張を緩和することにより体の緊張を解く」という好循環を生み出そうとするアイデアは、集中力と精神的緊張を強いられる「プレーヤー」の分野ではもちろんのこと、一般的な心身健康のためのリラクゼーションの目的でも、様々な方法論が存在する。しかし「個人的感覚」の問題を解決できないことが多く、結局は何を試みても難解であるという結論に達する人が少なくない。例えば自然体を得るためいったん全身の筋肉を弛緩してみるという方法論があるが、完全に全身を弛緩していたら、演奏するどころか立っていることもできない(それはトレーニングの課程として認識すべきである)。演奏のための自然体というのはただ漠然と力が抜けているという事とはまた違っている。

『「生体内にある持続的緊張」…それは持続的な消極的な緊張状態であって、それによって生体は支えられている。健康な筋肉はすべて、働いているいないに係わらず、この緊張を内部に持っている。』(うたうこと/p.136)

自然体は基本でありながら難解な課題とも言える。最も重要であり、必要な技術なのである。まずは「演奏のための自然体」の理想像を正確に認識する事と、習得に根気よく取り組むことがいかに有益であるかを認識しなければならない。ヨガ・呼吸法など様々なアプローチで構わないと思うが、「新・発声入門」のメソードは万人に分かりやすく、比較的「個人的感覚」の誤差も少ないのでお薦めできる。(→自然体

 

2) “楽器” の確保(胸郭の保持)

自然体になれたら、次により豊かな音を得るための姿勢を確保する。これを新・発声入門では「楽器の確保」と称している。声楽家にとっては体が音を増幅させる楽器そのものであるからだ。フルーティストは実際に楽器でもって音を増幅させるので混同しやすいから、本書からの引用のため解説しておく。ここでいう” 楽器” とは「胸郭」を指していて、フルートのメソードでは「胸を開く」あるいは「背中を拡げる」などと表現される事がある。豊かな音作りと、ブレスを長く保つのにも必要である。危険なのは、漠然と「胸を拡げる」「胸を張る」というようなイメージを持っていると、肩や胸が力んだり、背中の方が凝り固まって全く拡がらなかったりする事である。

『声楽は、体が楽器です。ピアノでもアップライトよりグランドピアノの方が豊かな響きがあるように、からだも、胸郭を拡げてより豊かな楽器につくり上げなければなりません。第五胸骨から上、すなわち別の言い方をするなら、みぞおちから横に引いた線より上を楽器だと思って、豊かに拡げ、保持するのです。体の前も後ろも、同じように豊かに拡がっていなければならないのです。そこで楽器を拡大するための筋肉運動のうち、特にからだの裏面、つまり背筋を意識し、強化することが必要になってきます。この楽器の保持は、のどの広がり、声帯機構運動の自在な働きを可能にし、また、呼気の支えのコントロールにも多大な影響を及ぼすのです。』(新・発声入門/p.27)

 

3) 横隔膜の緊張

呼吸法というと必ずついて回るのがこの「横隔膜」という器官であるが、正しくコントロールするというのはどういう状態なのかというと、曖昧な捉えられ方をしている事が多い。横隔膜は ” 半随意器官 ” であり、横隔膜本体をコントロールすることはできない。横隔膜に接する筋肉群を上手にコントロールする事によって可能となるのである。

『深く吸うことをいっぱいに吸うことと混同して、胸いっぱいに吸い込み、横隔膜を力で押し拡げ、腹壁をガチガチに固めてしまうことは大変な間違いです。私たちが日常、泣いたり笑ったり、咳をしたりする時に、横隔膜は常に活動している状態で働いています。歌う場合は、この無意識に動く横隔膜を自在にコントロールできるようにしていこうとするわけです。しかし、横隔膜自体を随意に動かすことはできません。それをコントロールするのは、その横隔膜に接している筋肉なのです。…そしてそれらの筋肉により横隔膜が自在に正しく使われると、息の保持やのどを拡げることが容易になり、呼気のあとの吸気運動も自動的に切り換わるようになります。』(新・発声入門/p.28)

ではその「横隔膜に接する筋肉群」とは、どこの事だろうか。まず始めに「腹斜筋」を挙げておきたい。(図2/重要な筋肉)身体の前面の左右の足の付け根、いわゆるビキニラインに位置し、斜め上方に引かれる筋である。ここが全てのブレス・コントロールの発端となる大切な筋である。運動量の少ない女性はこの筋が弱かったり、神経が全く萎えてしまっていることが多い。腹斜筋から臀筋(おしり)、背中へと連動し、ごく自然に横隔膜が呼気のための正しい動きを得るように訓練をしてゆく(→下記 4)呼気の流出運動 参照)。もう一つ重要なのが下記「インプルス」と称される腰のくびれ部分の筋である。

『さて、横隔膜に関連する重要な部分を挙げておきましょう。息が最も深くたまるように感じる場所が、横隔膜の背面部にあります。背中の下、肋骨と骨盤の間の、柔らかい筋肉の部分で、そこをインプルス(推進)と呼びます。』(新・発声入門/p.28)

インプルスはある意味”感覚的概念”と言えるかもしれない。それは誰にでも分かる平易な感覚である。森先生の挙げられた一例であるが、たとえばバスや車に乗って話している時にでこぼこ道で車両が跳ねて、話し声が急に大きくなってしまった経験はないだろうか。この時、インプルスは振動によって揺すられ、自動的に横隔膜を上へ推し上げたのである。この「バウンドする感覚」が自覚的に得られると、より柔軟な筋のコントロールへと繋がっていくのである。この感覚についても、自覚を強化するトレーニングが提案されている(→インプルスの自覚

話を横隔膜に戻して、違った視点で述べてみよう。呼吸訓練法のメソードからは少しそれるが、フースラーの記述の中に、演奏家にとって非常に興味深い記述があるので、是非紹介したいと思う。

『横隔膜は、まったくの感情的器官である。きわめて感動しやすい膜であり、ありとあらゆる感動や興奮は、自然に生じたものも技術的に作られたものも、すべてこれを通ってほとばしり出る門口でもある。横隔膜による表示は伝染性があって、聞く人の横隔膜もその表示に応答し、ともに感動させられ、かくのごとくして、他の人が歌うのを、実際にまったく肉体的に感得するのである。』(うたうこと/p.118)

フースラーは、この横隔膜から横隔膜への感情の伝達現象を「魔法のような放射線」とも言い表わし、そのわけを明らかにはできないと述べている。専門医学をもってしても「感動」の魔法を証明することはできないが、キーポイントは横隔膜だというのである。「共感する」ということ全てが感動の伝達現象なのであって、簡単な所では”もらい泣き”とか、”つられ笑い”なども同様な「横隔膜から横隔膜への感情の伝達現象」による。一流の役者や歌手というのはリアルな感動を演じ、あるいは作り出し、観衆を「共感」させることができる。

逆に言えば、いかに豊かな音楽的感情があっても、それを表出できるかどうかは、横隔膜と、それをあやつる筋肉にかかっている。フースラーによれば、天賦の才がない人間でも、訓練すればより強い伝達能力を得られる。人間は “もともと「うたえる」ように創られている” のだから。

 

4) 呼気の流出運動

ここでようやく実際の吹き方、「腹式呼吸」について考えてみよう。腹式呼吸というと、まず「息をおなかに吸う」とか「おなかに力を入れて吹く」などと漠然としたイメージで言われたり書かれたりするが、この漠然とした先入観はともすれば正しい呼吸訓練の妨げになりがちである。自然で楽な呼吸に伴う動きにはいわゆる「りきみ」につながる様な「力」を使うのではなく、また息は「吸うもの」ではなく「入ってくる」という感覚である。腹式呼吸とは本来、非常に自然に楽にできる呼吸で、話す時や寝ている時との呼吸と同様に、他の動作や思考の妨げになるような重大な集中力は要しないものなのである。(→図1/腹式呼吸と胸式呼吸の違い)

『歌手が歌うときには当然息をはいているのだから、息を吸うということは歌手にとってとるにたらぬ問題である。横隔膜は呼気のあとではまったく意志の働きを必要としない。意志をはたらかせることはかえって、法則に適った調整の流れを乱すだけだ。 それだから、次のようにも言ってみたい;効果的に十分に呼気をする方法を会得しないうちは、決して正しく吸気を行なえるようにはならないだろう。 もし呼気が正確に、そして生理学的に正しい分量で行なわれさえすれば、呼吸器官を弛緩させるための練習などは無用である。そのときにはともかく、呼吸器官のどんな過った緊張も、もはやあり得ないということは明らかである。』(うたうこと/p.50)

初級~中級では、ほとんどの学習者が胸式呼吸をしており、これはフースラーの言う効果的な方法ではない。見分け方は簡単で、たとえば以下のような状態は呼吸に問題がある。

・演奏する時に肩や胸が上下する・演奏時に酸欠状態になり苦しく感じる 
・特に低音を演奏すると弱々しく芯のない音しか出せない ・音程が不安定

呼吸の問題を無視して難しい課題に取り組もうとすると、様々な問題を併発する。姿勢が悪くなったり、アンブシュールに余計な力を加える癖がついたり、とりわけ「のど」を締めて演奏するようになる傾向が強い。これらは非常にやっかいな癖で、全ての演奏技術を大きく妨げる。それでは「効果的で十分な呼気運動」とは一体どういうものなのか、具体的に説明しよう。

腹式呼吸に最も関与する重要な筋肉がある。それは「腹斜筋」(ふくしゃきん)という足の付け根から背中へとのびる筋肉である。次に、腹斜筋と連動して働く「臀筋」(でんきん)というおしりの筋肉である。歌の世界ではよく「おしりを絞める」「肛門を絞める」というのが使われるようだが、これも「おなかに力を入れる」と同じに漠然としていて、勘違いをまねきやすい表現である。

『息は、胴体下部からの筋肉収縮によって送り出されます。まず、息の流出に最も関連の深い、腹斜筋及び臀筋について説明します。腹斜筋は、恥骨の上部から肋骨の後ろについている広背筋まで、斜めに伸びている筋肉です。この腹斜筋は、息の流出を起こすと同時に、呼気のバランスをとる土台となる働きをするのです。臀筋も同様の働きをしますが、単独では働かず腹斜筋と共に運動しますから、肛門を絞めたところで、その行為だけでは何ら呼気運動に影響を与えることはありません。』(新・発声入門/p.29)

胸式呼吸では肺全体を伸縮させるのに対し、腹式では肺の下部に接した横隔膜を押し上げて肺の中に圧力をつくり出す。この”横隔膜を上へ押し上げる動き”を目指して、まず「腹斜筋」が収縮する。臀筋が連動する。同時に横隔膜が押し上げられ、呼気の流出が”おこる”。つまり「腹斜筋」を引き締めること、おおまかに言ってこれが呼吸の土台となる。引き締めた筋肉を弛緩し、もとの自然体に戻ると、自動的に空気が入ってくる。これが腹式呼吸の「吸気」である。

 

5) 呼吸における総合運動と声帯機構との関連

歌をうたうのにのどが締まっていたらどんな声になるかは想像がつくであろうが、フルートを演奏する上でも「のどが締まった状態」は様々な弊害を誘発する。例として

・オクターブなどの跳躍が滑らかにできない ・タンギングがうまくいかない ・音にのびがなく、音量が小さい ・アンブシュールに問題がないのに、息がまっすぐ前に出ない ・いつも漠然と苦しい etc.

フルートを学ぶうえで「のど」についてくわしく考察する機会はあまりない。面倒だから無視してしまったり、タブー視されているかのようにさえ見える。確かに「のど」は声楽のメソードを参考にする上で最もデリケートな領域である。フルートの演奏には通常「声」を要しないという点で、決定的に異なるからだ。しかしきちんとした呼吸を会得していくと、結果として上記の様な症状は解消することができる。呼吸とのど=声帯機構の働きは関連した一つの運動なのである。

『歌唱に際しての呼吸は、胴体下部の内側から上方への運動によって行なわれますが、胸が沈むことによって起こる呼気は、のどの自由な活動を妨げる大きな原因となりますから注意してください。からだを新品のマヨネーズのチューブに見立ててください。チューブを机の上に立て、下の方をつかむと、押された分だけの中身が出てきます。同様に、胴体下部から息を押し上げる力は、腹斜筋や背面下部の肋間筋が担っています。このように、下から力強く押し上げられる呼気は、胸の固さを取り、咽頭が吊り下げられている筋肉網とよく協調します。つまり、呼気とのどとを結合する働きをするのです。』(新・発声入門/p.31)

 

6) 懸垂機構

「咽頭 (のどぼとけ) の懸垂機構」についての情報は、我々にとっても非常に有効な知識である。その構造と機能について理解するために「のど」の中はどうなっているのか、イメージしてみよう。「咽頭」すなわち「のどぼとけ」は、のどの中でいくつもの筋肉群によって吊るされている。この筋肉群は4つの方向へ作用するが、大ざっぱに言うと「上へ引っ張る筋肉群」と「下へ引き下げる筋肉群」があって、互いに引っ張りあっている。鏡を見ながらつばを飲み込んでみよう、のどぼとけは上へ動くのが分かる。今度はあくびをしてみよう、のどぼとけは下へ引っ張られる。この様に、のどぼとけの位置はそれを支える筋肉によって決められ、演奏に適した位置に保つにはそれらの筋肉を正しく働かせる必要がある。

『咽頭を正しい位置に保持し、懸垂している諸筋肉は、互いに拮抗しています。…懸垂機構に関わる筋肉群が正常な拮抗運動を行なえば、咽頭は、声楽発声のために働くことができます。正しく働く拮抗運動とは、四つの方向に引き合っています。このバランスによって声帯の形や緊張状態が微妙に変化します。咽頭懸垂機構が、正しい運動をしていないと、声区に分裂が起きたり、舌が固くなったりします。』(新・発声入門/p.42)

ちなみに歌唱に適した咽頭の位置は一番下がった状態より少し上くらいだそうだ。フルート演奏についても、咽頭の位置が上がりきってしまう事はいわゆるのどの締まった状態となり、前述の何となく息苦しい症状を招く。一方、せきをきったように大量の息が流れ出してしまって苦しいから結局「胸式呼吸」せざるを得ない、という場合がある。この段階では、のどは締まっていないが俗に言う「息の支えがない」状態で「呼吸」と「のど」が連携プレーをしていないのである。連携のポイントは「横隔膜」である。正しい呼吸と自由なのど、柔軟に反応する横隔膜。この連携がごく自然に、無意識にとれるようになるのが最終的な目標である。

『歌唱には、呼気の流出運動が基本であるということが解っていただけたと思いますが、前記の純粋な呼気の流出だけでは、無駄に流れ出てしまう分がかなり多く、そのために、まるで吠えているような、輝きの少ない音しか生まれません。そこで、呼気の流出と同時に、呼気を調節する対抗器官が必要となりますが、これは、横隔膜における緊張によって起こります。全ての呼吸器官と筋肉を駆動する呼出運動を抑制するために、相応の度合いで下方へ向かう運動が起こるのです。その課程で、声門は閉じられ、声帯は進展します。このように、呼気の流出運動とそれに伴う対抗運動とは、その相互作用によって呼気を計量して使用することを可能にするのです。また、呼吸器官から咽頭へ伝わる推進力をコントロールし、声帯機構を自在に操ることもできます。息の支えが音の支えとなるには、呼吸運動が声帯機構の働きを呼び起こし、バランスよく活動した時であることを忘れてはいけません。』(新・発声入門/p.32)

のどの筋肉は横隔膜と同様「半随意筋」であり、意識的にコントロールするのは難しい。しかも日常生活においては「飲み込む」など咽頭を引き上げる筋肉が頻繁に使われ、咽頭を引き下げる働きを訓練するのとは逆の方向性で鍛えられやすい。長年のどが締まったまま演奏をしてきて癖になってしまうと、治すのに根気がいるかもしれない。しかし悪い癖をかかえたままいくら楽器を練習したところで、穴のあいたバケツに水を汲むようなもので、成果はたかが知れている。悪癖が悪癖を生み、ますます身動きのとれない状態になってから後悔することになる。下記のフースラー先生の言葉に励まされて、訓練に取り組もう。

『自然歌手とは、この本では次の様に解釈すべきである。つまり、その発声器官が、最初から発声器官のもつ本性に適った、かなりよい働き方をしている歌手のことをいう。自然歌手と一般の歌手の異なる点は、一般の歌手では、適切な訓練によってはじめて、その声が解放され、訓練によってはじめて、本当の声が「引き出される」ことである。』(うたうこと/p.4)

 

7) 共鳴

『ブレス・コントロールと声帯機構の微妙な変化によって、様々な音色をつくり出すことができます。しかし、内咽頭の微妙な動きを自覚するのは非常に難しいことです。そこで、発声の際、共鳴点を設定し、そのポイントを追求することで、声帯運動と関連させることが重要なのです。このポイントが後述するポジション(音の焦点)です。』(新・発声入門/p.40)

声楽では響きの焦点(ポジション)というものを意識して声を作ることは常識的だが、フルートでは楽器そのものを共鳴させているため、あまり取り沙汰されるのを聞いたことがない。声帯の働きについてはここでは詳しく述べないが、声帯機構のコントロールに役立てるイメージ作りにはなるので、参考までにかじっておくのも良いと思う。

『音色は焦点によって様々に変化させることができます。各々のポイントを意識することで咽頭の状態は微妙に変化します。その結果として様々なひびき(色)を生み出すのです。』(新・発声入門/p.47)

ポジションの設定一つで、イタリアのオペラ・アリアのようなドラマティックな歌でも、内省的な響きのドイツ・リートでも、はたまたモーツァルトのコロラトゥーラ・ソプラノでも歌いわけられるのである。このような技術をフルートの演奏に置き変えたら、どのような可能性が広がるのだろう?

これらポジションのトレーニングは、呼吸やのどが完全にコントロールされていることが必須条件である。さらに豊かな表現力のために取り組んでみるのもいいかもしれない。とはいえ、フルーティストのソノリティ-としては呼吸とのどの課題がクリアーされた時点で問題ない状態だと思われる。

ここで、もう一つ声楽家たちの抱える大きな問題「声区の分離」をとりあげてみよう。

『歌い手にとって、声区は一種の理論です。声区を乗り越える近道は、高音から低音まで音色の統一を、いかに正しく行なうかという意識を持ち続けて練習を重ねることです。 胸声に使われる筋肉を働かせ、できる限り高音までのばしたり、逆に、頭声や、特に仮声(支えのあるファルセットでなければいけません。)で働く筋肉を使って、できるだけ低い声まで出す練習は、大変効果的です。こういう方法によって、混ざり合う音域を広げていくと、各々の筋肉が自然に共鳴するようになります。』(新・発声入門/p.49)

もし吹奏楽器においても共鳴腔が音色に大きく影響するのなら、音域によって音色が変化するのは、楽器の構造上の欠陥だとはもはや言えない。M.モイーズの「ソノリテについて」にある「音色と全音域の音の同質性について」の項はまさにこの点を指摘したものだったのである。逆をたどれば、ソノリテの課題にとりくむには呼吸やのどの問題を解決することが前提となるが、実際は課題の意図は無視され、ありがたいお経の様に日々くりかえされている場合がほとんどである。名著「ソノリテ」が正しく理解され使われていないという危惧はこの点でも顕著であると言えよう。


 

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