フルーティストのための呼吸訓練法セミナー(4)

7. 森明彦「新・発声入門」飛ばし読み

森明彦氏はドイツ・デットモルトの発声学の権威フースラー教授の解剖学・音楽生理学に基づいた著書「Singen(うたうこと)」から学び、主催する発声研究所にて呼吸法を含むヴォイス・トレーニング法、つまり声楽家の「歌唱の為の “体” の使い方」の習得訓練法を広く紹介し、教授している。この森氏の「新・発声入門」は、そのメソードの実践の為の教則本である。論文に引用した部分だけ抜粋した。

◆ まず大切なのは、「解放する」ということです。つまり、からだが解きほぐされ、自由な状態になっていることが原点なのです。そうすれば、発声器官のほとんどが的確に支配され、活力を取り戻し、各器官の筋肉が敏速でしかも伸縮自在な張力を最大限に獲得できるようになります。全ての障害が取り除かれたなら、誰でも各自が持っている優れた素質が現れてきます。その時初めて歌うことができるのです。まとまりのなかった発声器官の各部が瞬間的に統合され、各々の機能を果たすべき形に変形した時、真に美しい歌声をつくり出すことができるのです。 声楽をする筋肉ができていないからといって、誤ったボディービルのような筋肉トレーニングをしても、それは逆効果になってしまいます。声楽における筋肉とは、その強靱さが問題なのではなく柔軟性が大事なのです。したがって、筋肉の「緊張」と「緩和」の幅が大きければ大きいほど、優れた筋肉であると言えるでしょう。(p.18)

◆ 練習は、常に意味を持って、効果的に行わなければなりません。練習方法について、その課程と意義について述べましょう。…まず、筋肉の位置、働き、目的を自覚することです。それから、その筋肉がより活発に動くよう、強化訓練します。次に、各々の筋肉が、他の筋肉とどのような関連をもって働いているかを認識し、関連した筋肉運動の中で、障害となるものを取り除いていく練習をします。そして最後には、「息→音→色」が全く自然に、まるで音があふれ出るように感じられるまで訓練するのです。ここまでくるには、全ての筋肉が随意的働きによって、自在に運動できるようになっていなくてはなりません。(p.19)

◆ 頭ではなく、体が理解するまで、何度も同じ練習を積み重ねなければなりません。考えて良い声が出るわけではないのですから、もし、理解できないことがあっても、あまり思い悩まないで下さい。実際の練習を続ける中で自然に身体が覚え込んで、「ああ、これか!」と、身体によって理解できる段階が必ずあります。そういう風に理解した方が、確実で、正確な把握と進歩につながるものだと思います。(p.20)

◆ 身体は日々微妙に変化していますから、技術に自信を得た者であっても、努力を怠らず、毎日継続して訓練を行うことが大切です。まして、これから技術を習得しようという時は、毎日の訓練が必要であることは言うまでもありません。ただし、この場合、時間を長くかける必要はないのです。長時間の訓練で、身体が疲労し、正常な働きができない状態でなお訓練を続けることは逆効果になる恐れがあります。短時間に凝縮された継続的な訓練こそが、随意的肉体反応を生む最良の方法なのです。(p.22)

◆ 発声について熱心に研究するあまり、歌う時であっても、常に発声のことが頭を占領し、その結果、確かに上手いが、感動が無いという演奏を聞くことがあります。発声技術が前面に出る演奏ほどつまらないものはありません。歌い手が、本当に自由に、自然に、自己の音楽表現をできるような土台を作るのが発声訓練なのです。また、発声が歌の前面に出てきてしまうのは、完全に発声法をマスターしていない証拠でもあります。各々の音に対して、諸筋肉が無意識にバランスよく働くようになった時初めて、マスターしたと言えるのです。(p.23)

◆ 柔道やゴルフ、日舞、バレエ等にも自然体という言葉があるように歌唱にも自然体があります。言い換えれば、自然な立ち姿ということですが、これは、どのような要求にも即反応するために最適の、無駄のない基本姿勢を指します。歌唱においては、呼気のため、すなわち声を出すために働く筋肉の、緊張と弛緩の活発な運動を必要とします。そのため、立つ時点で、からだのどこにも無駄な力が入っていてはならないのです。(p.27)

◆ 声楽は、体が楽器です。ピアノでもアップライトよりグランドピアノの方が豊かな響きがあるように、からだも、胸郭を拡げてより豊かな楽器につくり上げなければなりません。第五胸骨から上、すなわち別の言い方をするなら、みぞおちから横に引いた線より上を楽器だと思って、豊かに拡げ、保持するのです。体の前も後ろも、同じように豊かに拡がっていなければならないのです。そこで楽器を拡大するための筋肉運動のうち、特にからだの裏面、つまり背筋を意識し、強化することが必要になってきます。この楽器の保持は、のどの広がり、声帯機構運動の自在な働きを可能にし、また、呼気の支えのコントロールにも多大な影響を及ぼすのです。(p.27)

◆ 深く吸うことをいっぱいに吸うことと混同して、胸いっぱいに吸い込み、横隔膜を力で押し拡げ、腹壁をガチガチに固めてしまうことは大変な間違いです。私たちが日常、泣いたり笑ったり、咳をしたりする時に、横隔膜は常に活動している状態で働いています。歌う場合は、この無意識に動く横隔膜を自在にコントロールできるようにしていこうとするわけです。しかし、横隔膜自体を随意に動かすことはできません。それをコントロールするのは、その横隔膜に接している筋肉なのです。…そしてそれらの筋肉により横隔膜が自在に正しく使われると、息の保持やのどを拡げることが容易になり、呼気のあとの吸気運動も自動的に切り換わるようになります。(p.28)

◆ 横隔膜に関連する重要な部分を挙げておきましょう。息が最も深くたまるように感じる場所が、横隔膜の背面部にあります。背中の下、肋骨と骨盤の間の、柔らかい筋肉の部分で、そこをインプルス(推進)と呼びます。(p.28)

◆ 息は、胴体下部からの筋肉収縮によって送り出されます。まず、息の流出に最も関連の深い、腹斜筋及び臀筋について説明します。腹斜筋は、恥骨の上部から肋骨の後ろについている広背筋まで、斜めに伸びている筋肉です。この腹斜筋は、息の流出を起こすと同時に、呼気のバランスをとる土台となる働きをするのです。臀筋も同様の働きをしますが、単独では働かず腹斜筋と共に運動しますから、肛門を絞めたところで、その行為だけでは何ら呼気運動に影響を与えることはありません。(p.29)

◆ 歌唱に際しての呼吸は、胴体下部の内側から上方への運動によって行なわれますが、胸が沈むことによって起こる呼気は、のどの自由な活動を妨げる大きな原因となりますから注意してください。からだを新品のマヨネーズのチューブに見立ててください。チューブを机の上に立て、下の方をつかむと、押された分だけの中身が出てきます。同様に、胴体下部から息を押し上げる力は、腹斜筋や背面下部の肋間筋が担っています。このように、下から力強く押し上げられる呼気は、胸の固さを取り、咽頭が吊り下げられている筋肉網とよく協調します。つまり、呼気とのどとを結合する働きをするのです。(p.31)

◆ 歌唱には、呼気の流出運動が基本であるということが解っていただけたと思いますが、前記の純粋な呼気の流出だけでは、無駄に流れ出てしまう分がかなり多く、そのために、まるで吠えているような、輝きの少ない音しか生まれません。そこで、呼気の流出と同時に、呼気を調節する対抗器官が必要となりますが、これは、横隔膜における緊張によって起こります。全ての呼吸器官と筋肉を駆動する呼出運動を抑制するために、相応の度合いで下方へ向かう運動が起こるのです。その課程で、声門は閉じられ、声帯は進展します。このように、呼気の流出運動とそれに伴う対抗運動とは、その相互作用によって呼気を計量して使用することを可能にするのです。また、呼吸器官から咽頭へ伝わる推進力をコントロールし、声帯機構を自在に操ることもできます。息の支えが音の支えとなるには、呼吸運動が声帯機構の働きを呼び起こし、バランスよく活動した時であることを忘れてはいけません。』(新・発声入門/p.32)

◆ ブレス・コントロールと声帯機構の微妙な変化によって、様々な音色をつくり出すことができます。しかし、内咽頭の微妙な動きを自覚するのは非常に難しいことです。そこで、発声の際、共鳴点を設定し、そのポイントを追求することで、声帯運動と関連させることが重要なのです。このポイントが後述するポジション(音の焦点)です。(p.40)

◆ 咽頭を正しい位置に保持し、懸垂している諸筋肉は、互いに拮抗しています。…懸垂機構に関わる筋肉群が正常な拮抗運動を行なえば、咽頭は、声楽発声のために働くことができます。正しく働く拮抗運動とは、四つの方向に引き合っています。このバランスによって声帯の形や緊張状態が微妙に変化します。咽頭懸垂機構が、正しい運動をしていないと、声区に分裂が起きたり、舌が固くなったりします。(p.42)

◆ 歌い手にとって、声区は一種の理論です。声区を乗り越える近道は、高音から低音まで音色の統一を、いかに正しく行なうかという意識を持ち続けて練習を重ねることです。 胸声に使われる筋肉を働かせ、できる限り高音までのばしたり、逆に、頭声や、特に仮声(支えのあるファルセットでなければいけません。)で働く筋肉を使って、できるだけ低い声まで出す練習は、大変効果的です。こういう方法によって、混ざり合う音域を広げていくと、各々の筋肉が自然に共鳴するようになります。(p.49)


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